LOVE庄内エッセイ 庄内が好き!

庄内の夏のうまいもの

このエッセイコーナーはe-Towns発行人、北風秀明が日頃抱いている庄内への思いをエッセイにしたもののアーカイブスです。

(vol.12 e-Towns 2013年7月号掲載)

今から十数年前、アルケッチァーノの奥田シェフがこんなに有名になる前のこと。僕は広告の営業の仕事をしていて奥田さんには随分お世話になっていた。ある時仕事の打ち合わせをしていて一冊の本を教えてもらった。「すごい面白い本があるんだよ」と奥田さんは目をキラキラさせて言った。「どんな本ですか?」「庄内のんめものがすごく分かりやすく書いてある」「そのうち読ませて下さい」と言ってからそのまま忘れてしまって、十数年経ってしまった。

それは「庄内のうまいもの」日向文吾著(東北出版企画)という本だった。僕は最近奥田さんとのそんなやり取りを突然思い出し、方々探し、出版社にもすでになかったので、インターネットでようやく見つけて中古版を購入した。この本、読み始めると不思議なほどどんどん料理の世界に引き込まれて行く。春夏秋冬の庄内の食材を紹介しながら、庶民がどうやってそれらを料理して楽しんできたかということが簡潔な文章で淡々と書かれてあるのだが、読み進めていくうちに筆者の庄内に対する愛情を感じつつ、腹が減ってくる。

例えば南禅寺の一節。…ふっくらと丸く盛り上がり、そのやさしいなめらかさは、乙女の肌を思わせるような感触である。口にふくめばとろけるように淡く柔らかい。冷たく冷やしてしょうが醤油でいただく時、すだれ越しの風が快くほろ酔いの頬をなでてくれる。ごはんにもよくあい、老人や子どもにはあんかけもよい。…もうこれを読んだら南禅寺を食べずにはいられない。

故日向文吾さんは大正2年生まれ。今から丁度100年前だ。この間、便利さの追求と情報化社会への変化により、私たちの個性溢れる豊かな食文化は画一的な流れに猛烈に飲み込まれ、失われつつある。奥田シェフはあれから全世界に庄内地方の素晴らしさを紹介してくれているが、ここに暮らす私たちもここはちょっと頑張って、この良きものを次世代に伝えていかなければならないと思う。

めずらしや 山を出羽(いでは)の 初なすび

松尾芭蕉が鶴岡の山王町で詠んだ一句である。芭蕉達も紫色の民田茄子を食したのだろう。俳句に詠むほどに美味しかったに違いない。今年も民田茄子が楽しみだ。芭蕉の頃と違うのは、冷たいビールを片手にというところだろうか。

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